私が図書館が好きなのは、来ている人がみんな自立しているから。自分の意思でひとりそこにいて、何かを探したり何かに耽ったりしている。彼らは自分自身にしか理解のできない思索のプールを音もなく泳ぐ。(派手にバタフライしている人を私は見たことがない。)
ショートカットで洗いざらしたジーンズに白いシャツを軽く腕まくりした中年の女性は「暮しの手帖」の最新号を立ったまま熟読している。
チェックシャツにベージュのチノパンの若い男性はオセアニア史の棚の前で立ったり座ったりしている。何を探しているのかは知らないがたぶんオセアニアに関することだろう。
ガラス張りの自習室では双子のように似た女の子がそれぞれにノートに何かを書いている。時々目を合わせてクスクス笑う。この図書館の唯一の人の声だ。
くたびれた茶色い上着にくたびれたグレーのスラックスを身につけた男性(年齢不詳)はベンチに腰掛け本のページを繰っている。その隣の席に5、6冊確保している。
そんなことは誰も気にしない。彼らはそれぞれがそれぞれの世界を持っていることを理解して尊重している。それぞれの世界が静かに交わっている、あるいは解けている、空間。